「言葉の壁」なんて!
今年の同行者(クルー)は、全員がアメリカ人でした。英語だけを話す人達、いや、英語しか話せない人達です。そして、僕はといえば、幼稚な英単語だけを口にする(日本語的発音で)日本人で、しかも全盲であります。クルーの気苦労が、いかばかりかのものかは御察知できるでしょう。(あっははは、僕って能天気だもんね)
「先生は、英語話せるんですか?」って、よく聞かれるんですが、答えは「ノー」。ただし、英単語だけを口にして、互いに理解し合う行為を「話す」と言うのであれば、今夏のアリゾナ旅行で(英語だけしか話せないクルーと8日間行動を共にしてみて)、何の苦痛も感じなかったのは、英語を「話せる」と言うことになるのかもしれない。
ここで、僕とクルーとの会話を再現してみよう。
場面は、昼食時。
クルー 「ドクターベアー、ランチ!」
僕 「オー、サンキュー」(料理の入った器を受け取る)
クルー 「チョップスティック?ホーク?」
僕 「うーん、スプーン」
クルー (笑いながら)「・・・・・スプーン・・・!」
(「」中の、・・・・・は、英語を話しているのだけれど、僕が聞き取れないものです)
僕 「おー、グーッド。サンキュー」(笑顔で)
1、2分の間、無言で食事をする。1、2分です。彼らはそれ以上無言でいられないみたいで、すぐにお喋りが始まります。何を話しているのか、皆目見当もつきませんが楽しんでいる事は解ります。
クルー (何の前触れもなく、突然にです)
「ドクターベアー、・・・・・・テイスト・グーッド?・・・・ソルト・・・スパイス・・モアー?」
僕 「ボス、モアー」と言って、器を差し出す。
クルー (かなり、ひょうきんな物言いで)
「Do you like strong taste?」(多分、このスペルで間違いないと思う)と言いながら、僕から器を取る。
僕 「Big one!」(両手で大きな輪をつくる、オーバーアクション)
3人で何やら話しながら、かつ、楽しそうに調味をしているが、話しの内容は
I can’t understand everything.
クルー 「・・・・メイド・・・スペシャルランチ・・・ビッグワン!」と、
大きな声で、しかもうれしそうに、僕に手渡す(怪しい)
僕 「サンキュー」と言って、一口食べる(なかなかいける。うまいよ)と思い、3口、4口と口に運ぶ内に、口の中に火がついたようになる。
僕 「ウォーター、ウォータ-、ウォーター、ハリー、ハリ-、ウォーター」と、叫ぶ。
クルー 「イエース、イエース」
(一見、驚いて慌てふためいているように見えるが、言葉が笑っている)
そして、ボトルごと僕に渡すのでした。
今度は、患者とのやりとりをご披露しよう。
僕 「ワッツ ウロング ウィズ ユー?」
(どうなされたんですかの英語版、丸暗記しています)
患者 (・・・・・・・ショルダー・・・・・・・・・・・・・・・」
と、長く話すが、理解できたのはショルダーの一言。
僕 「OK ショルダー。 And」
治療終了間際になって、こっちも痛いと訴えられるのがいやなので、この「and」は必ず言います。
(他には痛いところはないんですかと、聞いてるつもりです。)
患者 「・・・・・・・・・・エルボー・・・・・・・・・・・」
今度も長く話しますが、エルボーだけ聞き取れました。
僕 「エルボー!And」
患者 「・・・・・・・バック・・・・・・・・・・ニー・・・・・・レッグ・・・・・・・・・・・・・・・」
僕 「何だこりゃ、全身じゃん」と、笑いながら日本語で言います。そして、さらに、
「And」
患者 「 」(無言)
僕 「プリーズ ライ ダウン. フェイス アップ. テイク オフ シューズ アンド ソックス. ルーズ ユアー ベルト」
(靴と靴下を脱いで、ベルトを緩めて、仰向けで寝てと、言ってるつもり)
治療中は無言ですが、
「ターン オーバー、 フェイス ダウン」
(下向きになってと、言ってるつもり)
「シット アップ」(起き上がって、ベッドに腰かけてと、言ってるつもり)
「フィニッシュ」
と、これだけはいいます。
患者 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・サンキュー」(長く話すんだ)
僕 「ユアー ウェル カム」と、言って、握手をかわす。
こんな調子でやるんですが、それほど不便だと感じません。むしろ、細かなところが解らなくて、余計な気を使わないですむから気が楽でした。
日本で、患者さんと話す時は、 「あ-言ったらまずいかな」 「こー言ったら気分を害するかな」などと、気を使わなければなりませんが、アリゾナでは(アメリカでは)、気を使いたくても、英会話が出来ないんだから気の使い様がありません。
その点で言えば、「言葉の壁」は、「馬鹿な壁」ですよ。
(アリゾナレポート終わり)