「異邦人が研修生!?」

     「異邦人が研修生!?」
 
  11月11日    13Days from they left.
 デイビッドとローリーの日本びいきが相当なものだと、彼等と付き合った一ヶ月間でとても強く感じました。
彼等の日本びいきを感じさせるエピソードの一つを紹介しよう。
 
 治療院見学を始めて1週間目ぐらいの事でした。
ローリーが、木製の風呂桶と湯を汲み取る柄杓が欲しいと言い出したのです。英語で話す彼女の言葉の中に、
 「リアル ウッド」、「トゥルー ウッド」、
「トラディショナル」、
なんて単語が何度も入っていました。
そこから、彼女が風呂用の桶と柄杓が欲しいんだと察した僕達は、市内の桶屋に電話しまくりました。
と言っても、桶屋なんて、市内には三軒しかありませんでしたが。
たった三軒しか残っていない、その桶屋すべてが在庫を抱えていませんでした。
こりゃあ駄目かななんても思いましたが、不と思いついたのが風呂屋です。風呂の工事なんかをする風呂屋でした。
木作りの風呂用の桶や柄杓なんてのは、やっぱ職人町がよいだろうと見当をつけ、電話した最初の店で大当たり。
ある程度の数が揃った団塊で作っているらしい木製の桶と柄杓が、前回注文を受けた際に、一組余計に作ったのがあるとの事だったのです。
電話を切り、不安げなローリーに向かって、右手の指でOKサインをだした僕は、
 「桶、OK!」
の、親父ギャグをかましてみましたが、当然のことながら彼女に通じませんでした。三回ほど連発しましたが、やはり彼女には理解不可能でした。
そのまま引き下がるのも癪でしたので、
 「あなたの欲しいものを日本語では「おけ」と言うんだよ。この「おけ」と「Ok」って、サウンドが似ているだろうなんて意味のことを、つたない英語で必至にローリーに解説したんです。
 「念ずれば、花開く」ではないでしょうが、ローリーは理解したんです。
 「桶、OK!桶、OK!桶、Ok!あははは、はは、あはは。」
と、滅茶うけでした。
ギャグを解説して受けてもらえるなんて、なんとも間の抜けた話しなんですが、日本語の解らない異邦人が、これほどまでに受けてくれると、悪い気はしませんでしたね。
 
 「この、「桶、OK」の親父ギャグを、ローリーは大変気に入ってくれたようでして、この購入した桶をアメリカに郵送する際に、郵便局の窓口で、彼女は
 「桶、OK」とかましたそうです。
郵便局員に、とってもうけたと、嬉しそうに僕達に、ローリーが話してくれました。
 

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  11月6日    8Days from they left
 治療室での僕は、井草敷きの雪駄を履いています。
その雪駄のサンダルスタイルが気に入ったのか、井草敷きのところが気に入ったのか、ローリーが興味を示したのです。
 「それは何処で購入できるのか?」と、僕や寿々子さんに聞いてきた。が、この雪駄スタイルのサンダルは、新治療院のオープン時に購入したもの、秋になった今は店に並んでいるかどうか?
その旨をローリーに話したものの、
 「いや、ないかどうかは判らない。私はその店に行きたい。」と、どうしても購入するんだの激しい熱意を、ローリーは前面に出してきます。
ローリーの熱意に負けたってこともないんですが、一応僕の購入した店をローリーに教えました。
アメリカ人のあきらめないソウルってのはすごいですね。
僕達が教えた店には、やはり同様のサンダルはなかったんです。
でも、ローリーはあきらめなかったんですよ。
ホテルの近くや、治療院に通う途中のそれらしき店を片っ端から覗いたそうです。
それで、雪駄スタイルではないけれど、スリッパタイプの井草敷きの履物を見つけたんです。僕の購入した店を教えてから三日目でした。
こんな季節外れの商品を置いてある履き物屋ですから、おそらくしょぼい構えの店でしょう。(違っていたらごめんなさい)
そのような店にまで探索したローリーの欲望ソウルって言うか、あきらめないソウルってのには、恐れ入ってしまいました。
 で、このアメリカ人ソウルってのには続きがありました。
今度はデイビッドがソウルを見せてくれました。
 「センセイ、コレッ!」と、デイビッドは図抜け大一番とでも呼べるような、サイズが35cmはあるような、井草敷きの雪駄を購入してきたんです。
彼等が宿泊しているホテルの近くの呉服屋で見つけたらしいんです。
これって、はりあうソウルってんですかね、それとも、やっぱ、あきらめないソウルってんでしょうか?
僕は、はりあうソウルって思っていますがね。
どっちにしても、これって、師の教えに対して「学は真似ぶ」スピリットでしょうから、僕はくすぐったい嬉しさを味わうと同時に、とっても嬉しかった。
 デイビッドが図抜け大一番の雪駄を履きだしたのは、ローリーが井草敷きのスリッパを購入してからやはり三日目でした。
  
 

  
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    「異邦人が研修生!?」
  
  11月2日  3days from they left
 無事帰宅したらしいデイビッドからのメールは文字化けしていました。
日本語で冒頭を飾ったんでしょう。 でも、文字化けでした。
【アメリカから送信される日本語のメールが文字化けする事が、最近多くなりました。文字化けする人たちのワープロに「エイトック」を使用している事が共通しているようでもあります。】
  
 今までにも異邦人が四回、日本国内から20回前後、それに、十数年前からは盲学校の治療院見学が毎年来ています。
その見学者の中で、このデイビッドやローリーのように礼状を送ってきた者は、記憶しているもので7名しかいません。
異邦人も、国内に住む日本人も、アメリカに住む日本人でも礼状を送ってくるのは少ない。
盲学校からは一度も礼状を受け取った事がありません。
見学しっぱなしで、無しのつぶての見学者ってのは、見学する側のエネルギーと同じくらいの、いや、ひょっとすればそれ以上のエネルギーを見学される立場の者が消耗するって事は考えないんだろうか?
 見学者は、「ただの見学」ってくらいの安易な気持ちなんだろうな。
僕も駆出しの頃、治療院見学に2回行った事があります。
その時のことを振り返れば、見学されるより見学するほうがお気楽だった事がわかる。
そう、見学される立場になって、それも解った事なんだけどね。
それで次からは見学を断ろうかななんても思ったりもするのだけど、駆け出しの頃に見学させて頂いた時の喜びを考えると、礼儀の一つも弁えていない見学者が多い中でも、デイビッドやローリー達の様に礼儀を弁えている者もあるんだから、まあ、このまま見学者は受け入れようかってところに落ち着いてしまうんですがね。
いやあ、愚痴ってしまいまして、お恥ずかしいしだいです。
 
 わざわざご紹介するほどのものでもありませんが、そのデイビッドのメールを貼り付けます。
 
  「繝峨け繧ソ繝シ 繝吶い繝シ

I can’t sleep! I am writing you in the middle of the night. Ethan and
I are back. Brenda is back in Georgia now. We are very happy. Thanks
to you and Suzuko-san for the wonderful stay in Morioka.

Sincerely,

David」
 
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  「異邦人が研修生!?」

  10月30日  22日目
 深夜の地震に、「この地からのメッセージはなんだ?」なんて思ったけど睡魔には勝てず再入眠してしまった翌日は、穏やかな秋晴れの木曜日でした。
盛岡発9時28分の「はやて・こまち号」でローリーは岐路につきました。
そして僕は、9時34分送信のローリーからのメールを受け取りました。
列車が走り出した直後に送信したんだろう。彼女の喜びが伝わってきて、なんだか胸があつくなってしまいました。
ジョークが好きで、男っぽい性格で、日本文化が大好きな(特に温泉)ローリーのメールを紹介しよう。
  
  「Nice earthquake last night!
On train now. Thank you again for everything!
Lori」
  
 デイビッド親子はローリーよりも一本遅い列車で、アトランタに帰ったはずである。
  
  
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     「異邦人が研修生!?」

  10月29日  21日目
 冷たい晩秋の雨の朝は水曜日でした。
いつもよりはスピリットを感じさせる、
 「オ ハ ヨ ウ ゴ ゼ イ マー ス。」 
の声で、デイビッドも、ローリーも診療開始15分前ぐらいに登院した。
とかくセンチになりがちなファイナルデイ。それを払拭したいから気合を込め、スピリットを感じさせる声を出したんだろう。
だけど、「オ ハ ヨ ウ ゴ ゼ イ マー ス。」の挨拶は、『センチになんかなってないよ、センチじゃないよ』って言っているように感じられ、僕のハートがキュンとなってしまいました。
そんなふうにキュンとなった僕のハートを解きほぐしたのは、彼等の行動でした。
今までは寿々子さんの灸施術にはほとんど関心を示さなかったのに、土壇場になってあれやこれやと寿々子さんに質問をするんです。
彼等が灸施術に関しての質問しているころ僕は、次の患者の治療をスタートさせています。
彼等にしてみれば、やっぱDr.Bear.の鍼治療が気がかりらしく、僕の治療している部屋に入ってきます。
それで、入って来たかと思うとまた寿々子さんの部屋にとって返す。
まあ、ファイナルデイですから、全てを見ておきたい気持ちはわかりますが、僕と寿々子さんの間を行ったり来たり、その様は、まるで檻に入れられた熊のようでした。
一月近くも見学に通った異邦人との最後の日という、センチな気持ちに浸りたかった僕の願望は、あっちに行ったりこっちに来たりの彼等のおかげでかなえられませんでした。
 兎に角、今日の彼等は変でした。
落ち着きがないって言うか、気ぜわしいって言うか、やっぱ、檻に入れられた熊でした。
  
  

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   「異邦人が研修生!?」

  10月28日  20日目
 息子を学童保育所に向かえに行く為、デイビッドが帰って20分ほどたっていました。
ローリーが、その日の研修を終えての帰り際でした。
玄関まで見送った僕は何も考えないままに、
 「トゥモロー ファイナル デイ」(明日が最後の研修日だね。)
と、言ってしまった。
2、3秒の間をおき、ローリーは一言つぶやいた。
 「サアッドゥ。」(悲しいわ)
スニーカーの紐を結んでいたのかもしれないが、彼女はうつむいて呟いた様だった。
やはり、2、3秒の間をおいて僕は、
 「ミー トゥ。」(俺も)
と、彼女と同じくらい小さな声で呟いた。
5、6秒だった。
身も、心も、気も重く沈んでいくようだった。
ふわーっと立ち上がったローリーが、
 「ふふふふっ」と、声に出して微笑んだ。
そして、治療院の玄関ドアーを開けた。
二人の間に割り込んできた晩秋の風は、暖房の効いた治療室で逆上せ気味の頭を冷やしてくれるような気持ちよいものではなかった。
「アスタ マニアーナ!」(明日またね)
ローリーは片手を上げた様だった。
重い気持ちを吹き飛ばすような気合のこもった声だった。
 「アスタ マニアーナ!」
僕は片手をあげて微笑んだ。気合の込め方が彼女に負けてはいたが。

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    「異邦人が研修生!?」

  10月24日  多分16日目
 year と ear は、どう耳を澄ましても同じ言葉に聞こえてしまいます。
ローリーとデイビッド、それぞれ互いに発音させて、
 「この違いが判るか?」とたずねると、彼等は、
 「初めが年で後が耳だ。」と、自信を持って答えてくる。
 この year と ear で笑い話があります。
 何日目かの事でした。
いつもの様に僕の治療を見学していたローリーが、
 「Is it for ear?」と尋ねました。それが僕には、
 「Is it 4 year?」と聞こえました。
その時の患者は突発性難聴の主訴だったのですが、「4year」と聞いてしまった僕は、すかさず、
 「No, It’s for ear.」と答ました。
で、ちょっとの間をおいてローリーは再度、
 「4 year?」(と僕には聞こえたのですが、おそらく、彼女は『for ear?』と発音したのでしょうが。)と尋ねてきました。
for ear を 4 ear と聞いてしまった僕は、しつこいやつだななんて思いながら再度、
 「No, It’s for ear.」と、口を大きく開け、英語っぽい(我ながら良い発音だわいなんて感心するような)にんぐりっしゅを、ゆっくりと言ったのです。
すると先程よりも間を縮めてローリーは、
 「4 year?」って、すかさず尋ねてきた。
やっぱ、4 yearって聞いた僕は少々むっとしながら、仏の顔も三度までだよなんて心に思いながら、
 「No, It’s for ear!!」と、ややきつめの(僕にしてみれば)イングリッシュを発した。
 ローリーが理解したのかどうか僕には理解できなかったが、おそらくローリーの顔は不愉快な表情でしたのでしょう。
 「おーっ!」と、微かではありましたが、判ったと言う雰囲気の自信に満ちた感嘆の声を発した後、デイビッドは、
 「Dr.Bear ・・・・・ 4 ・・・ for ・・・ ・・
same ・・・」と、小声でローリーに話していました。
その時、治療室の空気がフリーズしたようでした。
このデイビッドのささやきは、なっていないヒヤリングの持ち主の僕にだって理解できるものでした。
 『オーッ!4 と for』、『year と ear』だったのか。
僕が理解したのとローリーが治療室を飛び出したのは同時でした。
廊下からしばらくローリーの笑いを殺した笑い声が続いた、とっても気持ちの良い秋晴れの日の治療院でした。

 
 
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     「異邦人が研修生!?」
   
  10月17日  11日目
 治療を行った全体の流れの中での、ある治療法について質問を受けた。それは一週間も前の患者のものである。
該当すると思える患者のカルテを引っ張り出し、記憶をたどってみた。
彼等の質問は、あまりにも痛い箇所を沢山並べる寒邪に閉口した僕が、害にも薬にもならない治療法を行ったものに対しての、その選択理由を知りたかったらしい。
害にも薬にもならない治療法なんかを彼等には教えてないのだから、彼等にとっては大変興味深く写ったんだと思う。
 彼等の質問内容は察しがついたんですけど、その治療には理由なんかはないんだと言う英語での解説をすることになってから、まるで通じなくなってしまった。
「意味ない。 not mean 」と、何度言っても、彼等はわかってくれない。
 「no reasn」、これも駄目。
 「Why reason?  I don’t know 」、これでも駄目。
 そこで思いついたのが、アメリカに住む日本人生徒にEメールで通訳してもらう事だった。
これはないすアイデアに思えたので、早速メールをしたんですが、これがまたまた面倒な種となってしまいました。
いかは、そのアメリカに住む生徒さんとのメールのやり取りです。
僕の送信メールのこぴぺです。
  
  送信1
 どうも、御無沙汰でした。
下記の文を英訳して欲しいんだけど。
  
 LI4/Stomach43の奇経治療を行った理由は、患者があー
だこーだとうるさかったので、この奇経を使っただけでたいした意味は
ありません。
   
面倒でしょうがよろしく。
  
  
  送信2
> 先生、あーだこーだ五月蠅かったって、具体的に何を仰っていたのですか?
>
> 教えて下さい。多分、其処訊かれます。
>
> 麻里。
  
体の具合とは関係ないことばかりで、もう忘れました。
  
  
  送信3
>
> お喋りな人には奇経を使うって事ですか?
>
  
  
 違うって。
なんだかんだとうるさく言うので奇経でもやって、治療をしたふりをし
て黙らせるんですね。
  

   
  送信4
>
> LI4(合谷)って、顔と口に良いからと胃経は口に繋がってるから、五月蠅い人が黙るとか
> ですか?
>
>
 違うって、
うだうだと沢山の病状を言うのがうるさいから、奇経治療をやって治療
したふりをするの。
だから、ゴウコク・カンコクの奇経治療には特別の意味がないって事な
の。
  
  
送信5
>
> 先生、爆笑しました。治療をしてる振りして誤魔化すのには、何故奇経なんですか?
>
> って言うか、どんどん訊きたい事が増える麻里(笑)
>
>
>
 奇経ってのは、効果が出るか、出ないかのどちらかなんですよ。
早く英訳してよ。
  
  
  送信6
>
> なんだかんだ言ってたのは、先生の治療に対してですか?
>
>
 違うって。
あっちが痛いだの、かゆいだの、くすぐったいだのと、特別治療しなく
ても良いことを、うだうだ言うのがいるんだよ。
早く英訳して。
   
   
  送信7
>
>  LI4/Stomach43の奇経治療を行った理由は、患者があー
> だこーだとうるさかったので、この奇経を使っただけでたいした意味は
> ありません。
>
>
> There’s no special reason why I used extraordinary channel treatment such as
> LI4 and ST 43
>
> As that patient talked too much, I pretended that I treated the patient. Then
> the patient was satisfied and became quiet. That might be a special
> technique, though. Wink!!
>
> 英語の翻訳
>
> LI4とST43の奇経治療を使用したのに、特別な理由はありません。
>
> 患者さんがお喋りが過ぎたので、治療する振りをしたのです。そうすると患者さんは満
> 足して静かに成りましたよね。まぁ〜これは、特別なテクニックと言えばソウかも知れな
> いけどね。ウィンク!
>
> 麻里でした。
>
>
>
 今、三人で大笑い。
ありがとうよ。
これに懲りないで、また頼みます。
   
   
送信8
>
> 先生、既に英訳送信しましたよ。
>
>
> ———————————
 ありがとさん。
これにこりずに、とらいあげいん。
Thank you.
   
   
  送信9
>
> 先生、もう大分前に英訳送信しましたが。。届いてませんか?
>
>
 大変失礼しました。
僕のPCは新しいものから順番に並んでいまして、おとだけで勝負の僕
はメールナンバーなんてのは聞こうとしないものですから、こんな失敗
が多々あるんですね。
そんじゃ、また明日。
だってね、ローリーが未だ質問あるってんだからね。
   
   
  トランスレイターからの返信10
追加

The reason why I chose the extraordinary meridian treatment for the patients
who is demanding to talk continously is that the Extraordinary channel
treatment is either effective or non-effective

Therefore, I can use it for the psudo-treatment

英語の翻訳

要求が多く話し続けてる患者さんに奇経治療を選んだのは、奇経治療は効果が有るか、
又は全く無いかのドチラかだからです。

それ故、擬似治療にも使用出来るのです。

以上です。先生の仰った事を追加して置きました。多分、そこが一番彼らの知りたい所
だと思いましたので。以前に訳したものが着いてなかったらお知らせ下さい。再送します。

でも、先生、私、明日、8時から授業なので、もう寝ます。今夜中の12時12分なので。。

お休みなさい。

麻里でした。

  
  トランスレイターからの返信11
質問ですか?

送信して置いて下さい。

お休みなさい。

麻里。

 これって、やっぱお笑いかな?
でも疲れるワイ。
   
   
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  10月14日  9日目
北東北の田舎町に一ヶ月も滞在し、理解不能な言葉の羅列の治療見学に励んでいる(?)研修生の努力を褒めてやろうと、昨晩回転寿司に彼等を誘った。
その日、バスで一時間ほどで行ける網張(あみはり)温泉に彼等は出かけた。
その帰路のバスが交通渋滞にはまったとかで、彼等は約束の時間に10分ほど遅れて来た。
網張温泉は彼等、特にローリーには快適だったらしく、
 「温泉、どうだった?」
と尋ねた僕の問いに答える代わりに、ローリーは彼女の腕まくりした前弯を僕の鼻先に差し出した。
 「匂いをかいでみろ」という事なんだろう。
まあ、とにかくローリーは上機嫌だった。
で、デイビッド親子に同じ質問を向けたら、
 「ちょっと熱すぎて、イーサンなんかは膝下を湯船につけてきただけだと言った。
盛岡市の近場の中の温泉では一、二番に数え上げられる網張温泉だが、うーん、確かに小学二年生の子供には熱すぎる温泉かもしれない。

 目指す開店寿司屋は込んでいた。
店内にある待合用の床机に座り、彼等が食べた一昨晩のすきやきの話しなんかをしている15分ほどの間に我々の席が確保できた。
185cmほどもあるデイビッドはアルコールに弱い男である。
163cm前後の身長で50Kgもない体格のローリーはアルコールが大好きな女である。
で、ローリーと乾杯した生ビールを呑み干したあと、僕は地酒の「南部美人」のもっきりを頼んだ。
そして、グラスの部分は僕が呑み、枡の部分の「南部美人」をデイビッドに無理やり進めた
笑いながら呑んでいたデイビッドが、
 「オ イ シ イ デス!」と上手な日本語で感想を述べた。
 「おおっ!じゃあ、もう一杯いこう。」と、二杯目はデイビッドがグラスの酒を、僕が枡の酒を呑んだのでした。
無論ローリーさんも我らと同様、「南部美人」のもっきりを楽しみました。

 そして今朝、
 「どうだい、ハングオーバーになってないかい?」と、アルコールに弱いデイビッドに尋ねたら、
 「センセイ、あれグッドメディスン。夜、身体が暖かくてぐっする眠れたね。」一箇所だけだが、ちょっと気になる日本語で彼は答えた。
あいつって、本当はいける口なのかも?
  
  
  
   10月15日  10日目
 いつもの様にデイビッドの到着より10分ほど遅れて到着したローリーの開口一番は、
 「I look ・・・・・・ セイモン ・・・!」だった。
 デイビッドはそれに答えて
 「ペラペラペラ」。
キーワードは「セイモン」だと気付いた僕が、
 「セイモン?」と聞く。
 興奮気味のローリーは早口で、
 「ペラペラペラ セイモン ・・・・」と、さらに早口でいう。
なめられてたまるかなんて考えたわけではないのだが何故か僕までが早口になってしまい、
 「セイモン セイモン セイモン?」三唱してしまう。
三唱が効いたのか、ローリーがややゆっくり目に、
 「セーイモン」と言った。
 「セーイモン? セーモン? セーモン? ・・・ フィッシュ?」僕が尋ねる。
 「イエース、 ペラペラペラ ・・・・ セーイモン」ローリー。
 「オー!サーモン」僕は叫ぶ。
 「イエース! はい、はい、はい。 セーイモン」とローリーも、日本語のはい三唱を英語の語りに挿入して、大声で喜ぶ。
ヂモティーが話す生英語ってのは、ほんと、聞きにくいんです。
つまり、彼女が僕の治療院に向かう途中の川(中津川)で鮭が泳いでいるのを見たって話しだったんですね。
これって、案外楽しいもんですがね、その楽しさ以上に疲れるもんですよ。
  
  
 
 
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  10月14日  9日目
北東北の田舎町に一ヶ月も滞在し、理解不能な言葉の羅列の治療見学に励んでいる(?)研修生の努力を褒めてやろうと、昨晩回転寿司に彼等を誘った。
その日、バスで一時間ほどで行ける網張(あみはり)温泉に彼等は出かけた。
その帰路のバスが交通渋滞にはまったとかで、彼等は約束の時間に10分ほど遅れて来た。
網張温泉は彼等、特にローリーには快適だったらしく、
 「温泉、どうだった?」
と尋ねた僕の問いに答える代わりに、ローリーは彼女の腕まくりした前弯を僕の鼻先に差し出した。
 「匂いをかいでみろ」という事なんだろう。
まあ、とにかくローリーは上機嫌だった。
で、デイビッド親子に同じ質問を向けたら、
 「ちょっと熱すぎて、イーサンなんかは膝下を湯船につけてきただけだと言った。
盛岡市の近場の中の温泉では一、二番に数え上げられる網張温泉だが、うーん、確かに小学二年生の子供には熱すぎる温泉かもしれない。

 目指す開店寿司屋は込んでいた。
店内にある待合用の床机に座り、彼等が食べた一昨晩のすきやきの話しなんかをしている15分ほどの間に我々の席が確保できた。
185cmほどもあるデイビッドはアルコールに弱い男である。
163cm前後の身長で50Kgもない体格のローリーはアルコールが大好きな女である。
で、ローリーと乾杯した生ビールを呑み干したあと、僕は地酒の「南部美人」のもっきりを頼んだ。
そして、グラスの部分は僕が呑み、枡の部分の「南部美人」をデイビッドに無理やり進めた
笑いながら呑んでいたデイビッドが、
 「オ イ シ イ デス!」と上手な日本語で感想を述べた。
 「おおっ!じゃあ、もう一杯いこう。」と、二杯目はデイビッドがグラスの酒を、僕が枡の酒を呑んだのでした。
無論ローリーさんも我らと同様、「南部美人」のもっきりを楽しみました。

 そして今朝、
 「どうだい、ハングオーバーになってないかい?」と、アルコールに弱いデイビッドに尋ねたら、
 「センセイ、あれグッドメディスン。夜、身体が暖かくてぐっする眠れたね。」一箇所だけだが、ちょっと気になる日本語で彼は答えた。
あいつって、本当はいける口なのかも?
  
  
  
   10月15日  10日目
 いつもの様にデイビッドの到着より10分ほど遅れて到着したローリーの開口一番は、
 「I look ・・・・・・ セイモン ・・・!」だった。
 デイビッドはそれに答えて
 「ペラペラペラ」。
キーワードは「セイモン」だと気付いた僕が、
 「セイモン?」と聞く。
 興奮気味のローリーは早口で、
 「ペラペラペラ セイモン ・・・・」と、さらに早口でいう。
なめられてたまるかなんて考えたわけではないのだが何故か僕までが早口になってしまい、
 「セイモン セイモン セイモン?」三唱してしまう。
三唱が効いたのか、ローリーがややゆっくり目に、
 「セーイモン」と言った。
 「セーイモン? セーモン? セーモン? ・・・ フィッシュ?」僕が尋ねる。
 「イエース、 ペラペラペラ ・・・・ セーイモン」ローリー。
 「オー!サーモン」僕は叫ぶ。
 「イエース! はい、はい、はい。 セーイモン」とローリーも、日本語のはい三唱を英語の語りに挿入して、大声で喜ぶ。
ヂモティーが話す生英語ってのは、ほんと、聞きにくいんです。
つまり、彼女が僕の治療院に向かう途中の川(中津川)で鮭が泳いでいるのを見たって話しだったんですね。
これって、案外楽しいもんですがね、その楽しさ以上に疲れるもんですよ。
  
  
 
 
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     「異邦人が研修生!?」  

   10月3日  1日目
 市役所の支所にある教育委員会にデイビッド親子を送って行くために、娘は2時前から待機してくれていた。
待っている我々、いや待たされている我々は、
 「3時半までにこなかったら、支所には行けないよね。」と、娘。
 「うん、そうなったら、教育委員会の手続きは月曜日ってことになるわね。」と、なんだかとげが僕に向かっている様に感じられるような寿々子さん。
 「うーん、そうなんだよな。子供がかわいそうだけど、まあ仕方ないよなあ。」と、控え目な僕。
 「お父さん、彼等に連絡したの?」娘までとがった物言いに感じられてしまう。
 「うん、まあ、俺の英語でさ、新幹線に乗ったら何時につくか連絡してくれってね。ただ、俺の英語だけどね。」って、ますますか細い声の僕。
 「それじゃあ、無理だよ。絶対理解していないよ。」て、寿々子さんはにべもなく言ってのけました。

 そんなやり取りの中、例えて言えばはりの蓆に座っている様な僕を救う電話のベルが鳴ったのは、午後3時21分でした。
 「おおっ!今付いたってぞ!」
デイビッド親子、ローリーの異邦人は、盛岡駅に着き、手荷物なんかをホテルに配送したりしてから電話をくれたんでした。
そうです、今か、今かといらついていたのは、僕達の勝手なんですよね。
フン、それにしても疲れたわい。

  10月4日  2日目
 昨夕別れ際に、「明日の ファースト ペイシェントは9時30分から。」と彼等には伝えた。そして彼等は10時30分過ぎに僕の治療院に来た。
彼等の、
 「明日は何時に研修にきたらよいのか?」(多分こんなふうに、僕に尋ねたと思うんんだが。)
 「us you like time」と答えた僕だから、彼等は好きな時間に来院したのでしょう。
うーん、アメリカンタイムかな?って納得したんだけど、
 「もうちょっと、やる気を見せて欲しいな。」なんて、us you like time言っておきながら、身勝手な心境の僕でした。

 僕の患者さん達はとても協力的で、彼等の見学を快く(多分そうだと思う。)受け入れてくれ、最後の患者さんの治療が終わる午後1時半過ぎまで、彼等は一心にノートをとっていました(様に思うけど)。

 最後の治療が終了してから、今後昼食を買い求めるコンビニとスーパーマーケットを、寿々子さんが案内する。
昼食後、ちょっと風邪気味になってしまったローリーの治療をする。
バス停に彼等を送って行き、バスの時刻表をみると、僕の記憶していた時刻は平日のもので、土・日曜日の時刻ではなく、次のバスが来るのに30分も待たなくてはならなかった。
ヂモティーの僕がこんなんだから、異邦人の彼等がアメリカンタイムになるのは致し方がないことなんだと、今朝方いらついた僕は、ちょっぴり反省したしだいです。
 
それにしても、イーサンは、本当にご苦労さんだと思う。7歳って言えば、外に出て遊びたい歳だろうに、初めての土地、初めての家、初めてのウェイティング・・・・・、それほど文句も言わずに一人で時を過ごしていた。
いくら日本語を話せると言っても、未だ7歳、やっぱイーサンはご苦労さんだった。

  10月6日(月)  3日目
 親父と同行してきた子供の、およそ一ヶ月間だけの入学先小学校が決まった。
我々夫婦、それに娘までが最も気にしていた子供の問題が一応片付いた。
親父は僕の治療見学が出来て楽しくて仕方がないと言った有様だったが、親父が見学している数時間を、僕のオフィスでDVDを相手に時間を過ごしていた彼を、明日から見ないで済む事は大いに気が楽である。
 受け入れ先の小学校えの手続きやら顔見世に同行した寿々子さんの話しでは、公舎内を案内されていた彼等を目ざとく見つけたジャリ共が、バーっと近寄ってきて、
 「ハロー!」とか、
 「何処から来たの?」とか、口々に質問攻めにしたそうで、イーサン
はちょっとビビッていた様に見えたそうです。
 授業終了後に厄介になる児童センターを見学し、手続きを行いに言っても、そこで遊んでいたジャリ共に取り囲まれ、
 「ハロー!」、
 「何処から来たの?」からはじまり、
 「なんか英語話してよ!」なんてのまでが飛び出すくらい、みんなに興味を持たれた様だった。

   「異邦人が研修生!?」

  10月7日  4日目

 患者さんの一人に老人介護施設の経営者がいる。
その経営者からの要請で訪問治療に出かけた。
 「往診」ってのを英語では house call って言うらしい。単純明解な言葉過ぎて、なんだか拍子抜けがする感じだった。
そのハウスコールに彼等の希望で同行させた。
日本の鍼灸師がどの様な治療形態で診療しているかを異邦人の鍼灸師に見せる為にも、また、介護施設での刺激が少ない日常を送っているであろう老人にサプライズを味わさせるのも良い事だろうと考え同行させた。
案の定異邦人を伴っての訪問は、入居者の老人達に少なからずのサプライズを与えたようである。
治療を終え、コーヒーを御馳走になってお暇する時だった。
おそらくデイケアーで滞在している老人であろうと思うんだが、突然、
 「ハロー!」ってきた。
ただそれだけでも研修生には嬉しかったようで、
 「コ ン ニ チ ハ」なんて日本語で答えた。
 小学校のジャリ共が、「ハロー!ハロー!」ってイーサンを取り囲んだことも、介護施設の老人が「ハロー!」と研修生に呼びかけたことも、思考レベルって言うのか、感受性レベルって言うのか、そんなところのもの、興味ある対象物に対し直ちに行動を起こすって事が、突然出現した異邦人と遭遇しても、おそらく遠巻きに眺めるだけの僕には新鮮な驚きだった。
これも今の日本人器質の一つなんだろうかな?

  10月8日   5日目
一人の研修生は8年前から僕と付き合っている。もう一人の研修生は7年前から僕と付き合っている。
だから、セミナーでは話していない経穴を、僕が臨床で使用すると、彼等はすぐに気がつく。これはこれで、教えるものとしては嬉しいんだが、その理由を尋ねられるのが大変つらいんである。
何故かと言えば、セミナーで教える事は基本中の基本なのである。その基本をふまえたうえでの臨床治療だから、より高度な理論にもとずいて経穴を使用するわけである。
その複雑怪奇と言っていい東洋医学理論を、英語で説明するなんて、もう大変な作業なんである。
インターネットの翻訳ページをひらっきぱなしでの使用経穴の解説を行うんだが、とっても疲れてしまう。
日本人に解説するならば、つまり日本語だけで解説するならば高々5分もあれば済んでしまうのに、彼等に解説するのには30分以上はかかってしまう。
ネットの翻訳ページで単語一つを示すと、
 「ペラペラペラペラペラ」と早口で、しかも長いセンテンスの質問が英語で帰ってくる。
 「モアー スロー. モアー ショート」と何度言ってもペラペラペラペラである。
そして再度ネットに入力、今度は彼等の話す言葉の中の一つの単語をアルファベットでである。
こんな事を30分もやっていると、頭の中にジーンと痺れた感覚が湧いてくる。肩もズーンと凝って来る。
こんなに節制している僕の血圧が下がらないのも無理からぬ話しです。

   10月11日  9日目
 土曜日は午前中だけの診療だが、彼等はレストデイにした。
イーサンが世話になっている小学校も児童センターも休みだから、デイビッドには、イーサンと一緒に遊ぶように言い聞かせた。
 それでも今日は、彼等に一ヶ月の治療研修を許可した理由の一つであるワンブーリューシンの製作があるので、娘にイーサンを近くのショッピングモールで遊ばせるようにと頼んで、我々は日本では入手不能なワンブーリューシンの製作にトライした。
このワンブーリューシンの製作は視力0の僕には無理でして、日本語だけしか話さない寿々子さんが、英語だけしか話せない二人の外人から手ほどきを受けながらのトライでした。
こんなへんてこりんな組み合わせでしたが、手真似、足真似、見様見真似ってんですかね、30分も経過した頃には、アメリカから購入した商品よりも良いできばえのワンブーリューシンを、寿々子さんは作れる様になっていました。
 3時半をわずかに回った頃、塾生のおよねがこの手作り交流会に参加した。
 4時半過ぎごろにショッピングモールで遊んでいたイーサン、娘達一行が帰ってきたので、近所のお団子屋さんのみたらし団子と小豆団子で交流会。
一週間ぶりに会うイーサンは、
 「スッゲエー!」を連発していた。
日本の小学校で、悪たれジャリ共との交流は、見知らぬ土地での生活の不安を払拭したようでした。
まずは、一安心。

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