「ンダスケェ!なんくるないさ。」 VOL.2  2006年二月 その16まで

その16

 息子のためにと、普通に近いおやぢが精一杯気張っているって事が、その夜の一同に伝わったんでございましょう。初めから友好かつ飾り気の無い食事会の座が、前よりも増して友好的な会話になり、笑いの花が咲いていったのでございました。
まあ、胸はって、
 「私がこの息子の父でございます。」
と、言える様な親父じゃあございませんが、
 災い転じて福となすってんでしょうか、
 へま言って、笑いを取るっててんでしょうか、これはこれで良かったんでございましょう。
 で、この夜の事を振り返ってみますとね、
 口が曲がるほどのお濃いのウッチン茶
 からだぺたぺた円皮鍼
が良かったんですね、意識も理性も飛ばしたのに、大したへまもやらかさず、したんですからね。まあ、欲目ってんでしょうか、僕は鍼灸師でございますから、
 からだぺたぺた円皮鍼
が効いたんだと信じていますがね。
とにかく、いい心持ちが持続したままで、無事、食事会を終了できたんですよ。そんでもって馬鹿酔っぱらいにはならない。おまけにね、あんなに沢山呑んだのに、翌日お酒が残っていない。爽やかな朝を迎える事が出来たんですよ。
ですからね、人の良い宴会の席が苦手で、いつも酒に負けちまって、後で鬱症状に悩んじゃうなんて人はね、もう大丈夫ですよ。
 お濃いのウッチン茶
 からだぺたぺた円皮鍼
で、トライしてください。
 「今夜も宴会の花火となって、ぱあっと散っていただきやしょう。」
なんて考えてるふていのやからをあっと驚かせる事請け合いでございます。
でもでございますよ。ウッチン茶や、円皮鍼だけの効果ではなく、この夜の息子の彼女の親族一同のもてなし上手も大いにそうさせたのは確かな事ではあるはずですがね。

 いやいや、どうも、長い間お付き合いくださってありがとうございました。
普通に近い親父が書く普通にはほど遠い独り言ですから、とんでもなく読みにくかったんでございましょう。本当にありがとう。
今回も息子の彼女は息子の彼女でしたが、次こそは息子の嫁さんとして登場してくれる事でしょう。
そうですね、それまで僕も親父業を磨かなくてはなりません。
でもね、今のままでも悪くは無いんじゃないかとはね、思うんですがね。そう、このままね。
 ンダスケ、なんくるないさ!

   (おわり)

=========================  その15 ===========================
     「ンダスケェ!なんくるないさ。」
        VOL.2  2006年二月
           その15

 もうここいらへんにくると意識とか理性なんてものは、意識の中からすっかり消えちまいましてね、それに不思議だった事は、下腹部からの意識の要求が全く無かった事でしたよ。
まあ、おかげでね、盛り上がってる最中にはばかりに行くってんで、座をしらけさせることをしなくて済んだから結構なことでしたがね、あん時の頻繁な尿意はなんだったんでしょうね?

 不思議ついでにもう一つお話ししますと、
 今夜はいつもの夜とは違う夜
って意識と理性が残っているときも感じていたんですがね、まあまあすきっ腹だったものですから、
 ちびっちびっ
トロリ
ってやっていても、あんがい酒の回りが速くってね、いい心持で呑んでいましたよ。
で、時々理性とか意識ってもんを思い出したりしていた時ってのは、
 ごくっ
 トロリ
ぐらいに抑えられましたがね、そのうちに、
 ごくっごくっ
もぐもぐ
ごくっごくっ、ごくっごくっ。
まあ、普段のペースになっちまいまして、意識とか理性ってもんは、そんなものはかけらも思い出しません。
で、こんなペースだと、声はでかくなるは、一人でしゃべくるは、・・・・・、
ってことになり、翌日、自分の乱行を聞かされ、
 「えええっ!ほんとかい?そんなんだったの?」
と、縮こまっちゃうのがおちなんですがね、この夜は、最初のちびっちびっのいい心持状態がずっと続いていましたよ。
ですからね、対面の叔父さん達の話の聞き役でしたね。
意識とか理性とかがどっかに飛んじまってもね、いい心持状態で話を聞き、あいずちをうち、にこやかにしてられたんですよ。
証拠にね、こうしてあの夜のことを文字に置き換えてんですし、あの席でアリゾナで食べた羊の肉の匂いを思い出すなんて事だって、酒に呑まれてはいなかったって事でしょう。

 まあ、酒を呑みますってぇと、耳がとおくなるのが常でしてね、いや僕だけがってんではないですよ、対外酒飲みは耳がとおくなりますよ。だからね、酒飲みの席とか、居酒屋なんてのは、わいわいがやがや、人の声の大きいこと。翌日、声ががらがらになるくらい大声で話しちまってる。
これはね、耳がとおくなるからね、そんで大きな声になっちまうんですね。それにね、アルコールパワーで、長い時間しゃべっても疲れを感じなくなってる。だから、呑むほどに酔うほどに声は大きくなっちまう。
ね、そうなんですよ。
で、ご多分にもれずって言うか、僕も耳が遠くなっていたんです。
年のせいですかね、家族から耳が遠くなったと言われていましたんですがね、
僕もテレビの音が聞きにくいって感じはしていましたよ。
生理的に耳が遠いのに(少しですよ)、その上に、意識とか理性を飛ばしちまって呑んでいるんですから、大分遠くなっていたんでしょうね、耳がですよ。
どう言った話の展開から対面の叔父さんがこう言ったのは覚えていないんですが、
 「ようとんしているね。」
って言ったらしいんですよ。
何をどうすりゃ、こんな風に聞こえるのか、僕は、
 「よるをとおしてのむね。」
って、聞いちまったんですよ。
 で、思いましたよ。ついに来たか!「ちゅらさん」だよ!
 夜通しやっちまうんだろうな。
 そろそろサンシンが出てくるんかい?
 テーブル片付けて踊っちゃうんだろうな?
 そんでもって、合間合間に、今夜のホストにお礼の言葉、いや言葉って言うんじゃないよ、一席ぶっちゃうんだぜ。
 ちょっと負けそうだなあ。
こんな事を瞬間に感じた僕は、
 「ええっ!いやあ、あのう、」
どきまぎ、しどろもどろ、で、
 「夜を通してだけは勘弁してくださいよ。」
って、言いましたよ。
だってね、この歳で徹夜はもとてもじゃないですが無理な話ですよ。それも酒を呑みながら騒いでですからね。
三、四秒の間がね、その場の空気が凍りました。
 「こいつ、養豚しているね。」
対面の叔父さんはゆっくりと丁寧に言ってくれました、再び同じ文句をね。
 二、三秒でした。僕の息が凍りました。
 「養豚をしているんですか?」
 「うん。」
 「よるをとおしてのむんじゃない?」
 「よ う と ん ね、し て い る ね。」
再度、先ほど以上にゆっくりと対面の叔父さんは言ってくれた。
全員の視線が僕と対面の叔父さんのやり取りに集中している気が感じましたね。
 「びっくりした!僕は夜を通して呑むって聞こえたんですよ!
アルコールも大分はいっていましたしね、大きな声だったんでしょうね。一同大笑い。腹を抱えて笑っている様な雰囲気でしたよ。
うけをねらって言ったって、こんなにうける事はありません。心底から、真面目にびびって発した言葉がね、こんなに笑いをとれるなんて、喜んでいいのやら、恥ずかしいやらで何とも妙な心持でございました。

   (つづく)

===================== その14 ==========================
    「ンダスケェ!なんくるないさ。」
        VOL.2  2006年二月
           その14

 意識とか理性なんかを飛ばしちまった僕の気分がハイレベルに近づきつつある中で対面の叔父さん達は、
 「今度はこれを呑むさあ。」
と、それから2種類の水割りを作ってくれた。そして、対面の叔父さん達は、2種類の水割りを呑み終わった僕に感想を求めた。
 「初めに呑んだ、あれが僕は好きですね。」
と、僕にとっては当然過ぎるくらい当然でしたが、最もあくの強いあわもりを賞賛しましたね。
 「それじゃあ、お父さんは沖縄の食べ物で嫌いなものってありましたか?」
と、対面の叔父さんがうれしそうにきいてきましたね。
 「いやあ、ほとんど無いですね。ちょっと弱いかなってのが、サーターアンダギー、あれが甘くて、ちょっとですね。」
 「ほお、まだ食べた事が無いってのはありますか?」
 「うーん、あーあー、あれですよ、あれ。山羊の刺身ってのがね、どう言う訳か一度も機会に恵まれなくって、あれぐらいでしょうかね、食べてないってのは。」
 「そお、じゃあ今食べようね。」
と言うや否や、
 「・・・に、山羊の刺身一皿頼むさね。」
って、親族の誰かに言いつけてしまったんですよ。
僕にしてみれば、沖縄来訪2度目からずっと食べたいと願いつつも食べられなかった山羊の刺身が食べられるんだから嬉しかったんですがね、
なんだか、こお、催促しちまったようでね、飛ばしちまった意識と理性が戻った気分でしたね。

 20分ぐらいでしょうか、戻ったかに見えた意識も理性も、やっぱどこかに飛ばしちまった僕と、お客様をもてなす意識を失わない程度に陽気に呑んでいる叔父さん達と、息子と息子の彼女の幼かった頃のエピソードをだしに盛り上がっている時でした。
山羊の刺身が到着したんですよ。
 酢醤油で食べるんですね。皮の部分がこりこりしていて肉の部分がしなっていましてね、これを口の中でもぐもぐやると、
 こりこりとしなしな
の対照的な歯ざわりが同時に味わえて何ともいえない愉快な気分になりましたよ。
味は淡白、ほとんど無いと言っていいくらい。軽く油がのっている感じもある。
それに、何とも言えない爽やかな匂いがある。さわやかな漢方薬ってんですかね、当世風に言えばハーブの香りってんですか、とにかく爽やかでいい香りに僕は感じましたね。
三切れ四切れと口に運んでいるうちに思い出したんですがね、ネイティブアメリカンのディね族の家で殺したての羊の肉を食べた時の匂いに似ていたんですね。
あん時も、羊の肉がこんなに爽やかな匂いだって事を初めて知ったんですがね。考えてみりゃ、山羊と羊、字を見たっておんなじなんですよ。似てるのは当然と言えば当然な話しなんですよね。
でね、アリゾナのでぃねん家で食べた羊は殺したて、さばいたのを目の前で焼いて食べたんですから、生(いき)の良さはピカ一。その羊の肉とおんなじ様に爽やかな匂いがしたって事は、今夜の山羊の肉も相当に生(いき)がいいって事なんですねえ。
動物の生肉、つまり刺身ってのをねいろいろ食べましたがね、この山羊の刺身ってのが僕の口には一番おいしく感じられたのは、やっぱ意識とか理性とか言うものなんか飛ばしちまったうえでのあわもりが一役かっているんでしょう
かね?
ちなみに、アリゾナのディねん家は禁酒区域、乾燥した爽やかな空気と果てしなく広がる大地、それに空はどこまでも青いそら!と言う演出で食べたあれも、それはそれで結構なもんでしたよ。
でもね、日本民族ってのは、おそらく酒好きなんでしょうよ。伝統食をおいしく食べる時ってのは、たいがい酒がつきもんですよね。で、僕は日本民族、あわもりと山羊の刺身てんで、やっぱこいつが一番うまいって感じちゃったんですかね?

   (つづく)
  

=========================== その13 ==========================
「ンダスケェ!なんくるないさ。」
        VOL.2  2006年二月
           その13

 「これは、うまい!」
ていう叔父さん達に負けずに、
 「胃やあ、本当ですね。すごいもんですね。」
と賞賛しながら、
 ちびちび、
 トロリ
を繰り返す僕に、対面の叔父さんが、
 「お父さん(そうだった、僕は息子の父だった。)、あわもりは好きですか?」
ときいてきた。
 (おっ、いよいよかな?)
と思いつつ、でも今夜は特別な夜って事を思い出し、
 『実はそれを待っていたんですよ。』
なんて事は言わず、
 「ええ、好きですけどね、このごろのあわもりみたいなやつじゃあなくっ30年くらい前に呑んだあわもりみたいなやつが好きですね。ただ、あわもりは強くってね、僕なんかはなめるくらいしか呑めませんけど。」
すると対面の叔父さんが、
 「うん!それならいいのがあるね。呑んでみるねえ。」
て、水割りを僕の前に出したんですよ。
まあ、根が嫌いな者じゃあないんですからね、せっかくだし、断るのもなんだしね、まだまだ十分はっきりと残っていた、
 今夜はいつもの夜とは違う夜
って意識と理性を飛ばしちまったんですよ。
・・・・呑みましたよ。・・・・それがね、
これぞあわもり!って感じですね。甘くなく、癖が強く、どちらかといえばくっさあい!ってやつでしたよ。
僕も何度も(いや、たった5回かな?)沖縄であわもりを呑んでるけど、
 「おお、これぞあわもり!」
って30年前の味を持つあわもりに、今夜、ここで巡り会えるって事は、ウー 「ム、この一族とは、やっぱ巡り会うべくして巡り会ったんだ。ウン、そうなんだ。」
と手前勝手な納得をしましてね、もう意識とか理性とかの問題なんて初めから無かったような気分になってしまいましたね。

   (つづく)