「ンダスケェ!なんくるないさ。」 VOL.2  2006年二月 その4

 「さだはる」ってよばれている番犬(?)が出迎えてくれた彼女の実家は、彼等が住むアパートから車で20分ほど走ったところだった。
彼女との一年ぶりの再会、それに初対面の彼女の母親、おばあと型どおりの挨拶を交わし、一番乗りの僕達が案内された襖を取り払ったふたま通しの部屋に置かれたテーブルは三個を連ねてあり、それを囲むように13枚の座布団がならんでいた。
 (ぎょえっ、なんだ?この座布団の数は?)
その座布団は、並んでおかれた左列のもっとも奥の座布団に座った僕に、がらんとした部屋で一人置かれた為でもないだろうが、僕の心でいまや最高潮に大きくなりつつあった不安に油を注ぐものだった。。

 僕の「へまをしたらあかん」の不安な気持ちにさらに油を注ぐような息子の一言。
 「ちょっと、お母さんを見てくる。」
僕は彼の父親。
 『おい、待てよ。一人にすんなよ。』
なんて情けない事は言えなかった。
 「おうっ、行ってこいよ。」
男はつらいよ!

 寿々子さんは、この日の為に岩手の漁師から送ってもらったホタテをさばきに台所に入っていたのである。
当日の昼ごろに届いたというホタテが、息子のアパートから電話した時の話では、貝の口が少し開きかげんだと聞いていた。
沖縄では珍しいであろうホタテの生を食べて欲しい思いと、ただ夕食会に招かれるんでは申し訳が無いという思いで、寿々子さんがさばく事で、義理も立つって判断してわざわざこの日に届くように送ったホタテが口を開いているっていうんだから、寿々子さんが台所に直行したのも無理もないことであった。
息子も、やっぱ気になっていたんだろう。
そして、僕は、大きな不安と緊張が入り混じった気持ちを抱えた状態で、一人になった。

  (つづく)